日々の泡

自転車で市民プールに駆け出して、水の中で仰向けになるのが好きだった。鼻から漏れる水泡が太陽に反射してキラキラ上昇する。周りの話し声も聞こえない。息ができないことも忘れるくらいずっと上を見ていた。地上よりずっとずっと美しかった。

 

人魚姫が陸で生活することの代償としてその美しい声を失ったように、わたしたちも何かを得るときには知らず知らずのうちに何かを差し出している。差し出した結果、欲しいと思っていたものに裏切られたり欲望が増幅したり 全てがハッピーエンドとは限らない。選択は博打だ。

 

9月19日、わたしは24歳になった。この歳までにはこれをしよう、この節目にあれをしようと、幼い頃にみた夢や計画たち、成仏させてあげられなくてごめんなさい。アーメン。でも、大人になったから、お金と責任は自分で管理できるようになりました。これから自信がなくなったときに支えになるように、過去と未来へのわたしへのプレゼント。この虚しいような悲しいような気持ちは、わたしが救う。

 

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静かで陽のよく当たる、やさしい自分だけの空間。内装は赤を基調としていて、テラスの付いている大きな部屋。現実逃避するには最高の場所だった。旅のお供として持ってきた本の表紙も、mameのスカートの差し色も、赤色で気分はさながらフランス映画の主人公。アメニティグッズはハーブの香りで統一されていて、こころのささくれが保湿されて柔らかくなった。

 

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オーストリアに旅行したときにチロル地方で乗った以来のゴンドラ。歳を取ったので、怖くなっていたらどうしようと思ったけれど杞憂に過ぎず、(わーあ冒険みた〜〜い)なんて足をぶらぶらさせながら牛たちに手を振った。山を登り切ったところに足湯があって、歩いてなんかいないのに我先にと入湯した。自然の美しい景色を見ながら浸かる足が気持ちがよくて、白昼夢のようだった。

 

わたしからわたしへ、なにもしない時間のプレゼント。失ってきたものたちへの葬い。もうプールで仰向けになって空を仰ぐことは叶わないけれど、 あなたはあの頃と変わらず、自分で生きやすい場所を見つけられています。地上で、息をしています。

 

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