言葉の記録

“ふりむくのは、挑戦だ。自分の愛ではなく他人の愛を信じるのは、自分への裏切りではなく、挑戦だ。(勝手にふるえてろ/綿矢りさ)”

 

“瞬間の集積が時間であり、時間の集積が人生であるならば、私はやっぱり瞬間を信じたい。 (泳ぐのに、安全でも適切でもありません あとがき/江國香織)”

 

“私は、あったかいもののほうを大切にする、ちゃんとこういうからくりを見破ることができる男の人を捜そう、絶対にいるはずだから。(ともちゃんの幸せ/吉本ばなな)

 

“大笑いは小さな狂気だと思う。その人の中で、何かが何かに触れてしまうのだ。触れられた方の何かはその人のそれまでの人生全部とつながっているので、根が深く混沌としていて、笑いはきりもなくでてくる。/江國香織「大笑い」”

 

“淡々ときらいなことを拒んできたわたしの道は濡れて輝く /雪舟えま”

 

“バスタブに水を満たして一日の確かに冷えてゆくまでを見る /本田瑞穂”

 

“ロマンチックというのは、人生のディティールで思いがけない美しさを発見して、そのつもりであちこちを見ると、どこにもここにもあった、とびっくりすること。/田辺聖子「ロマンチックはお好き」”

 

“おいしいワインは、胃ではなく身体に入る気がする。きちんと血肉になる実感もする。皮膚やまつ毛も、それを楽しく味わっている。/江國香織「干しブドウの味」”

 

“夕立に逃げ出すなにもかもよみな実りゆたかな旅をしなさい /雪舟えま”

 

“よその匂いは、たぶん、ものすごく違う匂い、ではないのだ。それはきっと、ほんのわずかな、違いだ。煮炊きに使うみりんやお醤油の銘柄の違い。使っている蚊とり線香の種類の違い。窓を開けて風を通す頻度の違い。/川上弘美「内田百閒『鶴』」”

 

“部屋に湯気があるというのは良いものである。真夜中の台所ではコトコトとちいさな音をたてて、シチューが、この夜が、煮込まれている。 /高山なおみ「片想いの夜を煮込む」”

 

“ほめられるとレモンを噛んだようになるたやすい心のかぎり愛する /雪舟えま”

 

“おとな、とは冷蔵庫の光のなかのひとつっきりの綺麗なケーキ /雪舟えま”

 

“誰かを好きになるという、その照り返しだけで光っているふがいない自分。いつかは壊れてしまうガラスみたいにはかない恋だから、これがまたよく光るんだ。/高山なおみ『パスタマシーンの幽霊』解説”